故国スロベニアに帰りて
『故国スロヴェニアに帰りて』
著 者:ルイス・アダミック / 訳 者:田原正三
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祝宴は夕方まで続いた。林檎の花びらが微風にのって、テーブルの上や、客たちの肩に舞った。テーブルの周りは、明るい開放感が満ちあふれ、陽気なおしゃべりが往き交った。囁き声はここでは必要なかった。
やがて、村人たちと文学者たちは、愛とワインと美しい自然を織り込んだ、スロヴェニアの国歌を合唱しはじめた。
「わたしの母もここにいたらよかったのに!」と、ステーラはすっかり感激の面持ちだった。「それに弟も、セレンも、メタも……」アメリカの身内や友だちの名をあげた。
「ベンと、キリーと、ケアリーも……」私は私で自分の友人を数人あげた。
歌声がやむと、詩人の一人がグラスを片手に立ち上がった。私たちはみな黙って、詩人の口元に注視した。詩人はこの麗しい午後のひとときを、山から吹きわたるそよ風や満開の林檎の木を、料理を、そしてグラスの中のワインを、表現ゆたか謳いあげ、さらにはブラト村と村人たち、とくに私の父と母に感謝の言葉を述べ、ふたたび村の周囲にひろがる草原や自然の素晴らしさにまで言及した。そして最後に、私のそばに歩みよって、アメリカへ旅立ったころからこのたびの帰郷に至るまでの物語を語ってくれた。私にはもはや返す言葉はなく、感激の涙を押さえきれなかった。
詩人は結んだ。「さあ、グラスを飲み干そう!」
グラスが飲みほされ、そうしてみんなして歌いはじめるのだった。
-本文から
故国スロヴェニアに帰りて-電子ブック(download ebook)
-Homrcoming Ebook by Noted Immigrant Writer Louis damic
Translation by Shouzou Tahara
Copyright © Shouzou Tahara
About the Author: ルイス・アダミック著 田原正三訳
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